鳶職の採用|とび技能士の特典を求人で示して未経験者を育てる
鳶職の求人で「未経験歓迎・資格取得支援あり」と書く前に、社長が決めたいことがあります。採用した人にどの仕事を担ってもらい、とび技能士の取得をその成長のどこに置くかです。資格名だけを並べるのではなく、自社で経験してほしい仕事と、資格取得後につながる選択肢を結び付けましょう。
この記事では、とび技能士の特典を手掛かりに、未経験者を育てる採用と経験者採用の選び方を提案します。以下の対話は、論点を整理するための架空のやり取りです。実在の会社の相談や採用成果ではありません。
未経験者にも来てほしいのですが、求人には「資格を取れます」としか書けていません。
まず、その資格がどの仕事や次の学びにつながるのかを整理しましょう。とび技能士には、玉掛けや技能講習に関わる特典があります。
資格名を増やせば、育てる会社だと伝わるでしょうか。
自社で任せたい仕事とのつながりを説明できるでしょうか。応募者には、資格の一覧よりも働く姿を伝えたいですね。
では、未経験者は入社後にとび技能士を取る前提で募集すればいいですか。
受検までの条件や、それ以前に担当する仕事を確認してから決めましょう。資格取得の目標と、入社直後の配置は分けて考えます。
経験者に求める仕事と、これから教える仕事を書き出すところからですね。
はい。その整理を基に、未経験者の育成枠を設けるか、経験者の採用を優先するかを決めます。
ここからは、制度の特典と会社が提案する育成の進め方を分けて見ていきましょう。
未経験者を採るかは、任せたい仕事から決める
最初に、採用理由を「人が足りない」から一段具体化してください。現在の仕事を担える人が必要なのか、将来に向けて技能を引き継ぐ人を迎えたいのか。この二つを同じ募集文で済ませず、今回の採用で優先する役割を決めます。
国土交通白書によると、2024年の建設業の就業者は55歳以上が36.7%、29歳以下が11.7%です。ただし、これは建設業全体の年齢構成であり、鳶職だけの数値でも、自社の応募見込みを示す数値でもありません。自社の採用方針は、現場の仕事と育成できる範囲を調べて決めましょう。
確認には、次の順番を勧めます。現場責任者と一緒に、採用した人に担当してほしい仕事を書き出し、その仕事に必要な経験や資格を照合します。そのうえで、教えながら経験を積める仕事と、入社時点で担ってほしい仕事を分けてください。
- 教える人と経験を積む仕事を具体化できるなら、未経験者の育成枠を検討する。
- 入社時点から特定の仕事を任せる必要があるなら、その経験・資格を持つ人の採用を優先する。
- 両方が必要なら、応募条件と期待する役割を分けて募集する。
避けたいのは、「若手が欲しい」という希望だけで未経験歓迎にする進め方です。教えられる仕事が決まっていなければ、まず経験者採用を進めながら育成の準備をする選択もあります。年齢の希望を先に置かず、入社後の役割を判断の軸にしてください。
とび技能士の特典は、三つに分けて読む
厚生労働省「技能検定を受検するメリット」には、技能検定の合格者に付与される特典が示されています。鳶職の採用説明に使う際は、玉掛けの「就業資格」、技能講習の「一部科目の受講免除」、次の講習への「受験資格」を分けて読むことが出発点です。
とび1級・2級には、制限荷重が1トン以上の揚貨装置、またはつり上げ荷重が1トン以上のクレーン、移動式クレーン、デリックの玉掛けの就業資格が挙げられています。求人では単に「玉掛けにも有利」とせず、どの特典を指しているのかを明示しましょう。
同じ1級・2級でも、足場の組立て等作業主任者技能講習について示されているのは、一部科目の受講免除です。さらに、登録鳶・土工基幹技能者講習については、とび1級に受験資格の特典が示されています。この三つをまとめて「とび技能士になれば関連資格も取得できる」と書くと、制度の違いが抜け落ちます。
社内で資料を読む際は、特典ごとに「対象等級」「何が認められるか」「自社のどの仕事に関係するか」を短く書き出してください。たとえば、足場の仕事を中心に育てたい場合は、足場の講習との接続を説明の中心に置きます。求人に載せるのは、自社の仕事との関係まで説明できる項目に絞る方針を勧めます。
厚生労働省も詳細は試験機関等への問い合わせを案内しています。資料の特典欄を確認したうえで、本人の合格状況や希望する講習に照らして利用できるかを確かめましょう。出典の表をそのまま募集条件に転記する前に、採用したい人に当てはめて読む工程を入れてください。
玉掛けの特典は、入社前の条件と取得後の目標に分ける
玉掛けの就業資格を求人で取り上げるなら、未経験者向けと経験者向けで説明の置き場所を変えることを勧めます。未経験者には将来の資格目標との関係を示し、経験者には保有資格と任せたい仕事の照合に使います。
未経験者向けには、「とび技能士の取得を育成上の目標に置く」という会社の方針を先に決めましょう。そのうえで、制度の説明として「とび1級・2級の特典には、対象となる揚貨装置やクレーン等の玉掛けの就業資格があります」と続ければ、会社の育成方針と公的な特典を区別できます。これは求人文の組み立て案であり、実際に掲げる際は自社の育成内容に合わせてください。
確認したいのは、本人がその目標に到達するまでの仕事です。現場責任者に、入社直後に担当させたい作業、経験を積ませたい作業、資格等を確認してから任せる作業を説明してもらいます。とび技能士取得後の特典だけで入社直後の配置を決めず、それぞれの作業に必要な条件を別に確認する進め方を取ってください。
経験者については、「鳶の経験あり」という自己申告と、玉掛けに関する保有資格の確認を分けます。応募書類で資格名を確認し、面接では実際に担当した仕事を聞き、採用後に任せたい仕事との対応を整理しましょう。資格の有無と経験の内容を別々に記録すると、採用理由を言葉にできます。
避けたいのは、「入社すれば玉掛けの仕事もすぐ任せる」「とび技能士を目指すので、最初の資格確認は不要」といった進め方です。募集文では将来の到達点を示し、配置の判断では現在の条件を確認する。この区切りを明確にして、未経験者にも経験者にも説明してください。
足場の講習免除は、仕事内容との接点を示す
足場工事の求人でとび技能士の特典を示すなら、足場の組立て等作業主任者技能講習とのつながりを具体的に説明しましょう。厚生労働省の資料では、とび1級・2級は「作業の方法に関する知識」と「工事用設備、機械、器具、作業環境等に関する知識」に係る受講免除の対象です。
ここで伝えたいのは、技能検定の取得が別の学びにつながるというキャリアの見通しです。求人文の案なら、「とび技能士の取得を目標に、足場の仕事の経験を積む育成を検討しています。とび1級・2級には、足場の組立て等作業主任者技能講習の一部科目の受講免除があります」と組み立てられます。育成が未実施なら、検討中であることを残してください。
この説明を採用する前に、現場責任者へ「当社でどの足場の仕事を経験してもらうのか」「その経験を振り返る際、何を確認するのか」を聞いてください。仕事の名前だけでなく、本人に説明してほしい内容や、指導者と確認する場面まで言葉にすることを勧めます。
ただし、免除科目をそのまま社内教育の省略項目にする進め方は避けましょう。資料が示しているのは、指定された技能講習の一部科目の受講免除です。社内で何を教え、本人の理解をどう確かめるかは、任せたい仕事に沿って別に判断してください。
足場以外の仕事も任せたい会社には、建築物等の鉄骨の組立て等作業主任者技能講習の一部科目にも、とび1級・2級の受講免除が示されています。ただし、将来扱うかもしれない工事まで求人に並べる必要はありません。自社で経験を積ませる予定があり、応募者に仕事内容を説明できるものを選びましょう。
「講習が免除」とだけ書くと、全部受けなくてよいように読めますね。
「どの講習の、どの科目か」まで確認しましょう。求人では一部科目の免除と示し、仕事とのつながりを説明したいですね。
1級の先は、将来の役割と結び付ける
とび1級には、登録鳶・土工基幹技能者講習の受験資格という特典が示されています。求人で1級を目標として掲げるなら、その先の講習名を載せるだけで終わらず、自社でどのような役割を目指してほしいかを考えましょう。
たとえば、社長が将来任せたい役割を「自分の作業を担う」「周囲に作業内容を説明する」「後から入る人の成長を支える」といった行動に分けて書く方法を提案します。これは会社側が考える育成の目標であり、登録鳶・土工基幹技能者の制度上の職務を定義するものではありません。
役割を整理したら、現在その仕事を担っている人に、どの経験を通じて力を付けてほしいかを確認してください。その内容と、とび技能士の取得や次の講習の検討を並べます。資格だけの年表を作るのではなく、「仕事で目指す状態」と「資格・講習の確認事項」を対応させる進め方です。
求人文の案は、「将来は、とび1級の取得と、その先の講習への接続も視野に入れた成長を目指します」のように、目標として示せます。実施する育成として確定していないなら、「育成案として検討中」と明記してください。受験資格の特典を、講習修了や役職への登用が決まっているように書くことは避けます。
未経験者の採用で、最初からすべての到達点を約束する必要はありません。今回決めるのは、とび技能士を自社のキャリアのどこに置くかです。本人の希望や仕事の経験を踏まえて見直せる目標として示し、入社後の対話につなげてください。
求人と面接で、資格の意味を仕事に翻訳する
求人票は、「担当する仕事」「目指す資格」「取得後につながる特典」の順に組み立てることを勧めます。最初に資格名を並べず、応募者がどの仕事のために学ぶのかを読める構成にしてください。仕事内容の文章を整える際は、中小企業の求人票の書き方も参照先にできます。
文章を点検するときは、制度の説明に線を引き、会社が約束する内容を別に抜き出してみましょう。「とび1級・2級に一部科目免除がある」は制度の説明です。一方、「当社で取得を支援する」「この仕事を経験してもらう」は会社の方針です。前者の根拠があっても、後者まで実施済みとは書けません。
面接では、資格の名称を知っているかだけで応募者を評価しない方針を提案します。未経験者には仕事内容と資格の位置付けを説明し、どの点を学びたいか、何がまだ分からないかを聞いてください。経験者には、保有資格に加え、担当した作業と今後担いたい仕事を確認します。
評価の記録も「資格があるので即戦力」と一文で済ませず、資格の確認結果、経験した仕事、自社で任せたい仕事への見立てを分けましょう。面接の判断をそろえる方法を考える際は、中小企業向けの面接評価基準のつくり方を参照してください。
資格取得支援の対象、費用、日程、申請担当、約束する範囲や説明のそろえ方は、型枠大工の採用|技能士資格とキャリアの見せ方を決めるで扱っています。本記事では、その制度を前提に何を資格目標として示すか、鳶職の仕事内容との対応に判断を絞ります。
求人を読んで「どの仕事を経験し、何を目指すのか」を説明できるか、社内で読み合わせてみてください。
次の一歩は、資格と仕事の対応を一枚にする
求人を書き直す前に、社長と現場責任者で、今回採用する人の育成案を一枚にまとめましょう。最初から立派なキャリア図にする必要はありません。入社時点の条件、経験してほしい仕事、とび技能士の目標、関連する特典を順番に並べます。
- 今回の採用で任せたい仕事を書き、未経験者を受け入れる枠か、経験者を求める枠かを決める。
- とび技能士を目指す理由を、玉掛け、足場の講習、将来の役割との関係から選んで言葉にする。
- 本人に当てはまる受検・受講条件や特典の扱いを、関係する機関へ確認する。
- 確認できた内容を求人と面接の説明に反映し、未確定の育成案は未実施と明記する。
完成の基準は、資格名が多く並んでいることではありません。「なぜこの仕事でとび技能士を目指すのか」「入社直後と取得後で、どのように役割を考えているか」を社内で説明できることです。説明できない部分が残るなら、求人の表現を大きくする前に、仕事の割り当てを見直してください。
未経験者を育てる方針を選んだ場合は、資格目標と現場で積む経験がつながっているかを点検します。経験者を優先する場合は、必要な資格と経験を募集条件に反映します。両方を募集する場合も、それぞれの入口と期待する役割を明示しましょう。
鳶職の採用条件や求人の伝え方を整理する相談先を探している場合は、Talencoのサービス案内をご覧ください。相談に向けては、現在の求人票と、今回任せたい仕事のメモを用意することを勧めます。資格の特典を、自社で働く理由としてどう説明するかを具体的に考える材料になります。